英語とのつきあい方
第4回 ビジネスマンは何をどう読むか−本・オーディオブック編−
小田
康之 (Vital
Japan代表)
古代の知の宝庫であったアレクサンドリア図書館には、70万巻を超える書物が集められていたといわれるが、人類の知の蓄積がインターネット上でも次々と公開されている。従来の紙のよる書籍の形態以外にも、インターネットを利用すると新たな世界が開けてくる。
ネットを使えば、海外の著者の肉声や本に関する情報も、日本にいながらにして、容易にアクセスできる。電子ファイルの形態のe-bookは、思い立ったらすぐにダウンロードして読むことができるのは便利この上ない。通勤途中に携帯プレーヤーで、アメリカの新刊本を聞くことも、ネットのおかげで気軽にできるようになった。
今回は、英語とつきあう上で役に立つネット上の本についての語ることにする。
▼本についての情報を手に入れるには
C-SPAN(アメリカの議会中継などを行う非営利のケーブル局)で放送されている著者へのインタビュー番組
Booknote が、映像(音声)とともにトランスクリプトも無料で公開されている。Booknoteは、歴史、政治や社会一般を扱った話題の本を取り上げる。本の概略に触れられるとともに、著者の生の声を聞くことができる。インタビューのトランスクリプトも公開されているので、英語の勉強にも有効に活用できるだろう。アーカイブページで年ごとに一覧をブラウズするか、好みの著者や書名をサーチボックスにいれて検索してみると良い。
Booknotes.org アーカイブページ
アメリカで本を出版すると、著者はプロモーションツアーとして全米各地を行脚して講演をすることになる。それらの講演は、著書の宣伝が本来の目的ではあるが、本で伝えたいことのポイントをうまく要約してくれている場合が多い。この講演の内容がネットで公開されているものもあるので、これは利用価値が高い。ネット上の講演については、また別の機会にこの連載でまとめてお伝えしようと思う。
米国で話題となるビジネス書をウォッチするには、ビジネス系週刊誌 Business
Weekの書評欄に注意を払っておくと良い。ネット上で無料で読むことができる。週刊誌1ページ分の長さなので、書評としては手ごろな分量だ。この書評で本のおおよその内容はつかむ事ができるし、実際に購入する本を選ぶための良いガイドとなるだおう。
前回も触れたが、New
York Times紙日曜版の書評ページ(紙では別刷り)は、ネット上で無料で公開されている上、全米で注目度が高いので、どのような本が紹介されているかだけでも目を通しておくと良い。話題の本は、第1章のみ無料で読むことができる。著者による朗読が聞ける本もあり。
本についてのあらゆる情報のポータルとしては、BookSpot.comが便利だ。さまざまなメディアへの書評ページやベストセラーへのリンクなどかなり網羅的だ。
▼英語の勉強がてらビジネス書を
ビジネスマンの回顧録の類は、たいてい英語が平易で読みやすい。例えば昨年出版されベストセラーとなった"Jack:
Straight from the Gut"は、GEの前CEOジャック・ウェルチ(Jack
Welch)の回顧録だ。カリスマ経営者として、全米のみならず日本でも絶大な人気を誇る。この回顧録では、自らの生い立ちに始まり、CEOの座の後継者選びまでを語る。邦訳は日本経済新聞社から2巻本で『ジャック・ウェルチ わが経営』として出ているので、既に読んだ方も多いだろう。原著は、e-bookとしてダウンロードしすぐに手に入れることもできるので、日本語と読み比べるのも良いかもしれない。(ジャック・ウェルチは、その後HBR誌編集長との不倫による離婚訴訟でタブロイドの格好のネタとなり、2002年の夏には、高額な退職手当を手にしているにもかかわらず、豪華な役員特典の数々が明らかとなり、メディアの標的となった。)
"Jack"
ダウンロードe-book[Microsoft形式](Amazon.com)
C-SPAN
Book.tv 本についてのジャックウェルチとの公開対話の映像(Real Video) 無料 1時間20分
厚い本は読み終わる前に枕になってしまうという向きには、論文やエッセーを1冊にまとめたものをお勧めしたい。それぞれが独立した論文なので、どこからでも読むことができるため、読み始めるまでの心理的な抵抗が少ないだろう。
そのような本としては、ピータ・ドラッカー(Peter
F. Drucker)の"The
Essential Drucker"は、気軽に手に取ることのできる1冊だ。ドラッカーは、日本でも人気が高く、邦訳本も数多い。前記の回顧録の中でジャック・ウェルチも"If
there was ever a genuine management sage, it is Peter."と称え、ウェルチがGEでとった「市場で1位か2位のポジションにない事業分野からは撤退する」という有名な戦略もドラッカーの言葉からヒントを得ていることを明かしている。
ドラッカーは、巧みな例えで読者をひきつけながらアイディアや箴言を分かりやすく語りかける。同書は、これまでの数々の著書からエッセンスを抜き出したものなので、多岐にわたるドラッカーの思想を手軽に知ることができる上、英語が非常に平易で読みやすいのも、おあつらえ向き。
Amazon.comでは、電子データである e-book版の購入ができる。
"The Essential Drucker"
ダウンロードe-book[Adobe形式](Amazon.com)
ダウンロードe-book[Microsoft形式](Amazon.com)
同様に論文を1冊にまとめたものでは、マイケル・ポーター(Michael
E. Porter)の"Michael
E. Porter on Competition"(邦訳は上下2巻本で『競争戦略論』)はぜひお勧めしたい。マイケル・ポーター(ハーバード・ビジネススクール教授)の一連の著作はビジネス上の「戦略」(strategy)を語る上では、すでに古典的な位置をしめている。それらの主要な論文を1冊にまとめたのがこの本。個別の論文なので、通しで読まなくとも必要なものだけ目を通すことができる。3部作(Trilogy)とも呼ばれる浩瀚なポーターの戦略本には手が届かなくとも、この本でそれらのエッセンスを味わえる。
"Michael
E. Porter on Competition" (Amazon.co.jp)
ダウンロード可能なのは、以下のHarvard
Business Review誌掲載の個別の論文
(同誌は、ダウンロードによる定期購読もできる。)
Michael E. Porter
"What
is Strategy?"[PDF] (Amazon.com)
"How
Competitive Forces Shape Strategy"[PDF] (Amazon.com)
"Strategy
and the Internet"[PDF] (Amazon.com)
2001年のビジネス書で米国において最も人気の高かったものの一つに、ジム・コリンズ(Jim
Collins)の"Good
to Great"(邦訳『ビジョナリー・カンパニー2』)がある。goodな企業が、どうしたらgreatな企業になれるのか、実証的に調査をした成果をまとめたのがこの本だ。ジェリー・ポラスとの共著による前作"Built
to Last"(邦訳『ビジョナリー・カンパニー』)では、きら星のように輝くgreatな企業を取り上げ、それらがなぜ永続するのかを分析したが、"Good
to Great"では、地味だが素晴らしい業績を上げつづけている11社を取り上げている。
"Good
to Great"公式サイト:本のポイントやさまざまなメディアによる書評が読める
Jim
Collinsサイトのライブラリーページ:本についての講演の一部の音声やインタビュー、論文など。
▼オーディオブックをネットを使って活用する
米国では、本を朗読したオーディオブックが日本以上に普及している。主だった本の新刊は、たいていオーディオ版も出版される。これは、米国では通勤の手段がもっぱら車によるからだろう。電車での通勤ならば新聞や本を広げることもできるが、車を運転しながらではそうはいかない。
CDやカセットテープに録音されたオーディオブックの他に、ネットでダウンロードやストリーミングによって入手することもできる。その代表格がAudible(オーディブル)だ。Audible.comでは、新刊から古典まで豊富なタイトルを提供している。
ネットでのコンテンツ配信は、著作権管理の必要からその使い方にはある程度制限があるものの、Audibleはなかなか使い勝手良くできている。購入したり、メンバーになったりすると自分のライブラリーが作成され、購入した本のファイルは、3つ以内のPCであれば何度でもダウンロードすることができる。ファイルサイズ(音質に影響)も複数提供されていることに加え、ストリーミングで聞くことも可能だ。購入したオーディオブックは、PC上で聞くほか、多くの場合CD−Rに焼きCDプレーヤーで聞くことができる。またAudible対応のPDAや携帯プレーヤーにファイルをコピーして持ち歩くことも可能。対応携帯プレーヤーの種類がまだ少ないのが難点だが、徐々に増えつつあるようだ。
*【追記】AudibleがiPodに対応 New!
Audibleのオーディオブックがアップルの携帯ハードディスクプレーヤー
iPod(アイポッド) で聞くことができるようになった。何十冊もiPodに保存して好きなときに聞くことができるので便利この上ない。iPod
nano ならワイシャツのポケットにいれてもかさばらない。
ただし多くのオーディオブックは、簡約版(Abridged)のため、原文そのままで全てを聞きたい場合には
Unabridged という表示のある完全版を購入しよう。英語の勉強のために、紙の本の文字と対照させながら聞こうという場合は、この点に注意する必要がある。
その時々で話題の本を、無料で1冊まるごとダウンロードできるので、まずは試してみるといいだろう。
Audible.com
Audibleには、品揃えがはるかに劣るが、無料で広告入りのオーディオブックをMP3で提供しているサイトに、イギリスのAudioBooksForFree.comがある。『不思議の国のアリス』やニーチェの『ツァラツーストラはかく語りき』などがダウンロードできる。有料で音質の良いファイルもあわせて提供しているが、無料のファイルは音質が悪く聞きづらい。
RecordedBooks.comでは、『ハックルベリーフィンの冒険』を無料でMP3形式でダウンロードできる。
▼たまには推理小説も
大部の文学作品には縁が遠いという人でも、推理小説であれば、内容の面白さで読み進めることができるだろう。デジタル化され、ダウンロードできるものもあるが、推理小説の場合には、低価格でペーパーバックが容易に手に入ることもあり、紙の本で読むのがまだ便利だ。ただ、前記のAudibleを使えば、著者による朗読のオーディオブックがダウンロード購入できるので、リスニングには良いかもしれない。
さてどんな作品から読み始めればいいのかという場合には、まずはその作品の多くが映画化されている著者のものなどはいかがだろうか。例えば、マイケル・クライトン(Michael
Crichton)、スティーブン・キング(Stephen
King)、ジョン・グリシャム(John
Grisham)、トム・クランシー(Tom
Clancy)などだ。
まずは、取っ掛かりに短編(英語では、イタリア語から拝借した "novella"
という言葉を使う)から始めるのが入りやすいだろう。例えばスティーブン・キングの短編4編を収録した"Different
Seasons"という本からは、『ショーシャンクの空の下に』、『ゴールデン・ボーイ』、『スタンド・バイ・ミー』という3本の映画が生まれている。
スティーブン・キングには、自らの小説の書き方を明かした"On
Writing"というノンフィクション作品もある。
"On
Writing"のeBook版
Michael
Crichton 公式サイト
Stephen
King 公式サイト
John
Grisham 公式サイト
Tom
Clancy Web Files(ファンによる非公式サイト)
▼ネットは古典作品の宝庫
著作権が切れた作品を無償公開しているサイトとしては、日本では青空文庫が有名だが、その手本ともなっているのがProject
Gutenbergだ。
印刷機の発明者の名を関するこのサイトは、5000以上の古典作品をテキストファイルで公開している。
Project Gutenberg
BlackMask Onlineでは、同様に著作権切れの古典を10000点近く無料で提供している。Acrobat
PDFなど様々な形式で読めるのは便利だ。
BookRagsでは、300以上の古典作品を含め1500の著作をオンラインで無償提供。
著名な作品には、Book notes
として詳細な解説もある。
Internet Public Libraryは、ウェブ上で公開されている書籍やレファレンス資料に膨大なリンクをしている。分類がしっかりしているので使いやすい。
読書という意味では、まだまだ紙には利便性の点で遠く及ばないネットやPCではあるが、そのメディアとしての情報量はますます拡大している。紙の書籍とうまく併用しながら、ネットを活用してゆくことは、英語とつきあいを深めて行く上でも、重要性を強調してしすぎることはないだろう。
(2002/10/1)
このコラムはGEO Global
Magazineに連載されているものです。
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