外国語を学ぶ方法は、さまざまだ。
私自身も大学・大学院では、スペイン語(スペイン・ラテンアメリカ地域研究)を専攻し、その後も、いくつかの言語と格闘してきた。 では、その中で英語とはどのように付き合ってきたか。
●大統領の英語
私がこれまで実践し、人にも薦められる勉強法は、米国大統領の英語を学ぶことだ。学ぶと言うより、その語源に近い「まねる」と言ったたほうが正確かもしれない。
米国大統領の英語を学ぶ利点を、私は次のように考えている。
・国民の誰にでも理解できるようなスピーチをするため、言葉が比較的平易で、内容が明快。
・スピーチとしてのレトリックが凝らされている。
・スピーチ時のしぐさ、ジェスチャーなど、視覚的にも相手を説得する技術に富んでいる。
・日本のテレビで放映される機会も多く、また主要なスピーチは原稿が活字になるので、教材として入手も容易。最近はインターネットでさらに手軽に手に入れることができるようになった。
私自身は、大学時代には、大統領の就任演説を集めたカセットテープを利用した。ケネディ大統領の就任演説は何度となく聞いたので、主要な部分は、ケネディの独特の抑揚と共に口をついて出てくる。
では、具体的にはどのような方法で学ぶか。私が実践するのは、シャドーイングだ。これは、通訳の訓練でよく行われる方法で、ヘッドホンをして、流しっぱなしの英語(または他の言語)の後を追いかけて同じように繰り返してゆくやり方。
最近では、シャドーイングをタイトルにした英語学習本も、多数出ているのでおなじみかもしれない。
ここでのポイントは、自ら聞き、口にする英文を、ただ機械的に繰り返すだけではなく、内容を良く考えながら繰り返すこと。そして、話者になりきることだ。とにかく大統領になりきって、声を荒げるところは荒げ、静かな語り口の時は静かに語る。
●プレゼンテーション能力の向上を目指して
どのようなスピーチを教材に使うか。
私は、大統領の就任演説(これは当然4年に1回)や、毎年1月末に連邦議会で行われる一般教書演説(State
of the Unidon Address)などを録画する。 また、両党の大統領予備選における、正副大統領候補者による指名受諾演説なども、熱がこもっていて良い。
大統領のスピーチを学ぶことは、英語を学ぶことと共に、プレゼンテーションのよい訓練になる。ビデオにとったスピーチの映像やウェブ上で公開されているスピーチの映像を見ながら、ヘッドホンを耳に当てシャドーイングをする。大統領の視線がどこに向いているか、どのようなジェスチャーを使っているかなどを、注意深く観察しながら、自分も大統領になりきってみることだ。
とにかく、大統領になりきり、明快な発音、そして大きな声で話すことが重要。
これは、プレゼンテーションの訓練として、とても効果がある。
Vital Japanの代表して毎月のように勉強会やパーティーでの司会をしているが、そこで役立っているのは、このようにして大統領の英語を学んできたこと。これは、日本語、英語を問わない。
●大統領の弁舌
大統領との質疑応答のやりとりは、よい教材になる。
例えば、1998年11月にクリントン大統領が来日した際にTBSに出演して、市民と対話をした番組の模様が同社のホームページで公開されている。
『筑紫哲也
NEW23』クリントンスペシャル・大統領があなたと直接対話
http://www.tbs.co.jp/uspresident/index-j.html
このTBSのページには、英文、邦文の全文が掲載されている。Real Playerで映像と音声も公開されており、プレゼンテーションの訓練、通訳の訓練にも最適の教材になる。(この番組の英語音声ストリームはこちら。日本語部分は同時通訳の英語で聞ける。)
この時のクリントン大統領の応答を見ていると、明快、論理的、そして感情に訴える、という説得のための基本が遺憾無く発揮されているのが分かる。
自分が外国語や日本語でプレゼンテーションをする際には、大いに参考にさせてもらおう。
●どこで手に入る?
最近では、インターネットのおかげで大統領の英語の入手はとても容易になった。
当「外国語広場」では、主要な演説や関連情報へのリンクをまとめているので、まずはそちらを見ていただくと良いだろう。
■外国語広場:アメリカ大統領 演説・講演 映像・音声・テキスト へのリンク
書籍としては、上智大学教授の松尾弌之氏による『大統領の英語』(講談社現代新書、1987年)という新書がある。ケネディからレーガンまでの演説原稿とともに、その背景を分析した好著。この本は、2002年に増補改訂版として、クリントン・ブッシュまで含めたものが講談社学術文庫に『大統領の英語』
として入っている。
近頃は、CD付きの英語スピーチ本が数多く出回っている。スピーチの名手ビル・クリントンの就任演説を始めとする有名なスピーチが納められている『大統領の英語ビル・クリントン―大統領就任演説から不倫スキャンダルまで』
もお勧め。大統領選挙後のWinning Speechや早稲田大学での講演、Monica Lewinskyとの不倫が発覚後の「不適切な関係」演説など、対訳テキストと音声CDのセット。
演説の名手として名高いケネディ大統領では、『ケネディ大統領演説集―英和対訳』
長谷川潔(翻訳)2007年、としての主要演説の原稿が音声CDもついて発売されているので、手頃な価格でこれも重宝する。
また、2006年に出版された 『リーダーの英語
スピーチの達人に学べ! アメリカvsイギリス』は、とてもいい。この本では、ケネディ大統領、レーガン大統領、ブッシュ大統領、ヒラリー・クリントン上院議員、サッチャー首相、ブレア首相など米英のスピーチを取り上げる。トランスクリプトと和訳だけでなく、解説も充実。基礎編では、スピーチの構成と書き方、話し方と話法、実践編では、説明責任を果たすスピーチ、説得力のあるスピーチ、情感にあふれるスピーチ、専門的な内容のスピーチ、と章立てして詳しく解説する。音声CDもついているので、シャドーイングの教材にももってこいだ。
2008年発売の『歴史が創られた瞬間のアメリカ大統領の英語』(CD付)
西川 秀和(著) は、歴史に焦点を当て、歴代大統領の主要な演説の原稿と音声を収録。アメリカ史の背景も解説している便利な書籍だ。
これらをどう使うか、便利なサイトや小道具などについては、「英語とのつき合い方」に詳しく書いたので、そちらを参照いただきたい。
■外国語広場:英語とのつき合い方 - ネットやPCを使った学習方法
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